バロックのパイプオルガン、ロマン派以降のピアノ。機能からの表現の違い
こんにちは、オルガニストの長井浩美です。
パイプオルガン初心者のかた・特にピアノのかたから良く質問があるのですが、
「この旋律を出したい・歌うように表現したいのですが、どうやったら出来ますか」
というようなことです。(経験を積むと次第になくなりますが。)
この質問は、音楽の発展上、とても重要なことを含んでいると思います。
そこで、まずは身近な疑問「ピアノとオルガンの機能の違い」から、「表現法の違い」に関する私の考えを書いてみたいと思います。
ピアノとオルガンの機能の違いを考えてみる
違いを簡単に表にまとめてみました。
ピアノ | オルガン | |
発音 | 弦を叩く | パイプに空気を入れる |
タッチによる強弱 | できる | できない |
一つの音符のみでのクレシェンド機能 | できない | バロック:できない 後期ロマン派以降:装置で多少はできる |
音の持続 | できない 減衰する | できる 一定 |
サスティン・ペダル | ある | ない 教会内は残響が長い |
鍵盤の段数 | 1段 | 1段以上 |
時代 | ロマン派以降 | バロックまで |
強弱なし・長さのみ
オルガンは、タッチにより強弱を変えられませんので、長さでしか音を表現できません。
表現したいフレーズ感があるならば、一音目と二音目それぞれの音の長さ、音と音の隙間、を調整するしかありません。それは本当に微細です。オルガン・タッチを駆使していきます。
鍵盤交替・レジストレーション
そのほか、音量を変えたいならば、違うストップなり、違う鍵盤を使うなりして、そこを大きく出すしかありません。
しかし、突然音量が変わることになります。
音量だけでなく、音色も変わります。
残響を味方につける
5秒などという驚異的な教会の残響を味方につける訳です。つまりは、その中での演奏を最初から意図して曲を書いています。前の音、前の前の音…も残っています。
ピアノと管弦打楽器
ピアノも、一音のみを弾くことに関しては、音量の減衰はあっても、大きくする事は出来ないわけです。
そこは、管弦と違い、ピアノも二音以上あって初めて弱→強を表現できる、打楽器的な表現手段の楽器だと私は捉えています。
オルガンと違い、ピアノは倍音が発生しますので、倍音を使った表現は大きいと思います。
バロックの「オルガン音楽」に必要か
バロックの時代にクレッシェンドがなかったとは私は全く思いません。クレッシェンド・デクレッシェンドなく管弦や歌を演奏することはもはや機械でしか出来ないと思います。
しかし…..
本当に出す必要があるならレジストで。
故に、本当にその旋律をピアノや管弦のごとく出すことが意図されているのか…
は考える必要がありますが、もし、その旋律を本当に出す必要がある場合。
おそらく、それが伝統的なレジストレーションとして今に残っている・伝承されているレジストレーションのスタイルなのかもしれません。
または、そのまま弾いても、機能上十分聴こえているのかもしれません。意外と左手がよく聴こえている時もあります。
まとめ
オルガンは、長さしか変えられない以上、個人のリズム感だけで勝負をしなければならない楽器です。
リズム感だけで自分がイメージするフレーズ・拍子、高揚感など様々表現しなければならないのです。
個人のリズム感が問われる楽器、オルガン
以上から、私が考える「もしオルガンで旋律を歌うようにフレーズ感を表現したいならば」
ことだと思います。
- 拍子感
- フレーズ感
- 残響を考慮
- 伴奏部
伴奏こそ様々な感情を表現してくれるものです。伴奏部がきちんと弾けている事が重要。
多声になっている時に長い音符の長さがいい加減なことこそ、作曲家が欲しい音数・音量・それによって発生する音の減衰・増幅を損ねています。
心配ない。表現できていないのではなく、ごまかしがきかないだけ。
表現できていないというのは杞憂だと思います。一つ以上の音を弾いた時点で、人間は同じ長さでは弾けませんのでそこになんらかのリズム感は発生しています。その時点で、音楽性・リズム感・身体能力・耳の良し悪し等、現れています。
レジストで変更は可能です、しかし「レジストに頼るな」「レジスト抜きで表現できる音楽を」と師匠から言われます。残念ながら、自分のうちから出るリズム感と能力に、なんのごまかしも効かない楽器なのです。
以上です。