「カッチーニのアヴェ・マリア」の本当の作者は?なぜ?
オルガニストの長井浩美です。
「カッチーニのアヴェ・マリア」。素敵な曲で人気も高いです。
しかし、カッチーニの曲ではありません。
ルネッサンス末期・バロック初期の作風でもありません。
ヴァヴィロフ Vladimir Vavilovとは
本当の作者は、ウラディーミル・ヴァヴィロフ 氏。Vladimir Vavilov 1925生〜73没。
サンクトペテルブルク音楽院出身。作曲、ギター、リュートがご専門でした。
ご自身の作曲した作品を、有名な作曲家(主にルネッサンスからバロック期)の作品として発表することが多かったと言います。
- 有名な作曲家の作品は、人々に受け入れられやすい。
- ヴァヴィロフ本人も、作品の出来不出来の批判を受けない。
等の理由が憶測されます。
当初この作品は、「作者不詳のアヴェ・マリア」として発表されました。
後に、他のアーティストがレコディーングにあたり「カッチーニ作」と表記。
それが人気を得て広まったため、現在カッチーニと誤認されたまま有名になっています。
作風については、カッチーニの作品と銘打ってはいるもの の、ルネッサンス末期・バロック初期の時代の作曲技法で書かれているわけではありません。
カッチーニ Giulio Cacciniとは
ジュリオ・カッチーニ。Giulio Caccini, 1545年(頃)生〜1618年没。
ちょうど、イタリア・ルネッサンス音楽の末期からバロック音楽初期にかけての作曲家です。
音大の音楽史では、作曲家ヤコポ・ペーリと共に「エウリディーチェ」を作曲した重要な人物として習いました。
この頃、「モノディー様式」という新しい独唱スタイルの音楽が誕生したのですが、カッチーニはその中心人物でありました。
それまでのルネッサンス音楽では、多声音楽が主流でしたし、以前も書きましたが「一声部づつ歌詞の内容・言語が違う。」などという、(歌詞が聞き取れそうもない)作曲も行われていたわけです。
そのような中にあって、歌詞が聴き取れる音楽を求める声が広がりつつありました。
今では、至極当然な事のように感じますが、そういった時代的背景があったのです。
このモノディー様式の作品は、「独唱or重唱の歌手+伴奏の楽器」で演奏され、多くは弾き語りであったとのことです。
「語りながら歌う」「内容が解説のように分かる」歌とされています。
まとめ
カッチーニの名前がどういった経緯で出てきたのかは分かっていません。
ヴァヴィロフ が、
- リュートなどを専門としていたこと
- 旧ソ連に古典物を広めようとしていたこと
作品が、
- 歌+(弾き語りが出来るような楽器での)伴奏という形式
から、モノディー様式のカッチーニのイメージが浮かび上がっていったのかもしれません。
しかし作風的には全くルネッサンス末期・バロック初期の技法でないことは、前にも述べたとおりです。
今では、「カッチーニのアヴェ・マリア」という題名で愛される名曲。
皆様はどんな推理をなさいますか?
それでは。
オルガニスト長井浩美